古い音源も最近の演奏家も比較的情報を集めているつもりだったのですが、
1990年代の優れた演奏にうちてはあまり知識がありませんでした。
この時期は優れた歌手が不在の時代なんて言われることがあり、
所謂3大テノール世代が現役で活躍しているものの衰えが見え始めていて、
例えばコッソットなんかは生で聴いた時、私はなぜそんな偉大な歌手だと言われているのか理解できなかった程で、全盛期の音源聴いてあまりの違いに無茶苦茶驚いた記憶があります。
そして次の世代を代表するアラーニャやヴァルガスといった歌手は若手として注目を集め始めた時期で、まだ全盛期とは言えませんでした。
ハイソプラノではグルベローヴァ⇒デセイの世代交代期間みたいな感じでしょうか。
そんな感じなので、1990年代の音源は私自身あまり聴いていなかったのですが、
こんかい聴いた1994年 Mainzでのトリスタンとイゾルデの音源が凄過ぎて圧倒されたので、今回取り上げることにしました。
Wagner Tristan und Isolde 1994 Mainz (audio)
<キャスト>
Tristan – George Gray
Isolde – Carla Pohl
Brangäne – Sandra Graham
Kurwenal – Hannu Niemelä
Mark – Friedemann Kunder
Melot – Jürgen Rust
Hirt – Fred Hoffmann
Seemann – Fred Hoffmann
Steuermann – Milen Stradalski
Conductor – Peter Erckens
有名な歌手が一人もいませんね。
しかし、全員凄い!!!
まず、トリスタンを歌っているGeorge Grayの情報が調べても全然出て来ない。
(同じ名前の英国男爵が出てくる)
2010年頃までワーグナー作品を確かに歌っていたようなのですが、プロフィールを見つけることすらできず、この演奏以外の音源も勿論見当たらない。
なぜこれ程優れたヘルデンテノールが埋もれているのか全く理解できません。
録音状況が悪く聞き取り難い部分あるものの、声量も太さもありながら、決して強い音圧で押しているのではなく豊な響きがある。
まるでマックス ローレンツのようなテノールではないか!?
イゾルデを歌っている Carla Pohlは1942年南アフリカ生まれ。
ここでも南アフリカ出身のソプラノが登場ですよ。ホントどんだけ優れた歌手を輩出している国なんだろう。
この演奏を聴くと、響きのポイントが完璧なのがわかります。
決して響きが厚くならず、硬口蓋部分が常に鳴っている感じ。
なので、中低音で声量が落ちても声はしっかり飛ばせるため、イゾルデみたいな役を歌っても、大音量のオケの上を超えていくような声で歌い続けることができるのだと思います。
高音には多少苦戦する部分が聴かれることもありますが、それを差し引いてもこのレベルの歌手は滅多に聴きません。
ブランゲーネ役のSandra Grahamはシュトゥットガルトで主に活躍したメゾソプラノ歌手のようで、現在はカナダのオタワ大学で教壇を取っているようです。
この方も立派な歌唱をしていますが、YOUTUBE上に音源が全く見当たりません。
クルヴェナール役のHannu Niemeläもプロフィールを探すのすら難しいのですが、
どうやらヴェルディバリトンとしても活躍していて、近現代作品まで幅広いレパートリーを誇っていたようです。
そして声もヘルデンバリトンのそれですから言う事なしですね。
こういう歌手が全然音源を残していないなんて、この時代のレコード会社や音楽評論家はいったい何してたのかと怒りすら覚えます。
マルケ王役を歌っているFriedemann Kunderはドイツのバスで、
マインツで歌っていた歌手ということなので、ここで歌っているのは大いに頷けますね。
クンダーは他の歌手と比べるとCD録音も残しているようで、第九のソリストを務めている音源が見つかりました。
最後に、私は歌手ほど指揮者は詳しくないですが、
ここで指揮をしている、 Peter Erckens(1951~2001)は、全体的に速いテンポ感ながら、決して音楽が軽くならず、出すべきラインはくっきりしていて、オケの音も汚くならずに重厚感は十分。
調べてみると、ホルスト・シュタインの弟子だったようですので、この音楽作りも頷けますね。
ずっとドイツ国内だけで活動されていたようなので、録音も残っていないのでしょうが、
マインツ州立フィルハーモニー管弦楽団とのシベリウスやショスタコ作品の演奏は素晴らしいものだったようです。
ここまで全体のレベルが高いトリスタンの演奏は正直滅多に聴けません。
ただ素晴らしいの一言で、本日は興奮しっぱなしでした。
中々全部聴くのは大変でしょうが、
是非時間のある時に全曲通して聴いてみて頂きたいです。
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